【直圧直結/増圧直結/貯水槽水道】給水方式の選択基準について

建物の設計の初期段階において、給水方式の選択は設計全体の方針に大きな影響を与えます。

特に、受水槽を設置する必要がある場合は、敷地または建物の中に大きなスペースを割く必要がありますし、また、高架水槽を設置する場合には建物の構造計画に与える影響も大きくなるため、設計の初期の段階で給水方式についての方針をある程度正確に定めて置く必要があると考えます。

この記事は、意匠設計者が最低限知っておきたい給水方式についての知識と給水方式の選択基準の目安を知ることで、建物全体の計画をスムーズにコントロールできるようにと考え作成しました。

給水方式の選択基準についての設計メモとしてご利用ください。

  • この記事の説明は、建物の設計にあたって意匠設計者が簡易的に設備設計(給水方式の選択)を行う場合の参考資料程度とお考えください。
    より正確な基準や詳しい情報については設備設計者や専門書をご参照願います。
  • 給水方式については各自治体により取り扱いが変わります。より正確な情報については各自治体の水道局へお問い合わせください。
  • この記事は主に東京都水道局のWEBサイトを参考にして作成しました。
目次

給水方式の選択基準

まずは、給水方式にはどのような種類があるのかを解説いたします。

直結給水方式(直圧/増圧)or 貯水槽水道方式

東京都水道局WEBサイトより抜粋

建物への給水方式には、大きく分けて「直結給水方式」「貯水槽水道方式」の2つがあり、さらに「直結給水方式」「直圧直結給水方式」「増圧直結給水方式」の2つに分かれます。

よって、設計者にとっての給水方式の選択肢としては、「直圧直結給水方式」「増圧直結給水方式」「貯水槽水道方式」の3つがあると考えてよいでしょう。

それぞれにメリットとデメリットがありますので、それらを把握し給水方式選択の基準としてください。
また、条件によっては水道局に認められない給水方式もありますので、そちらも一緒に解説していきます。

直圧直結給水方式・増圧直結給水方式・貯水槽水道方式|メリットとデメリット

東京都水道局WEBサイトより抜粋

直圧直結給水方式とは?

「直圧直結給水方式」配水管(水道本管)の水圧で各蛇口に給水する方式です。

自治体により異なりますが、おおむね3階までの給水が可能で、条件によっては4階以上にも給水が可能です。(特例直圧給水方式といいます。)

多くの自治体では、3階以上に直圧で給水する場合や、他の給水方式と併用する場合は、給水工事の申し込み前に水道局に可否の判断を受ける事前講義が必要になる場合があります。

4階建て以上への特例直圧給水方式とは?

現状の配水管の水圧で、建物の4階以上へ直接給水できる場合に、増圧給水設備の設置を留保し、特例として直圧で給水する方式。
将来、何らかの要因で配水管の減圧が生じた場合に備え、増圧ポンプを増設できるスペースをあらかじめ確保しておくことで、特例として直圧直結給水が認められる場合があります。

東京都の場合、水理計算上可能であれば建物の高さに制限はありませんが、メーカーの口径が20mm以上75mm以下と制限されています。
また、増圧式や貯水槽式との併用は認められていません。

直圧直結給水方式のメリットとデメリットについて
  • 「直圧直結給水方式」のメリット
    • 貯水槽や増圧ポンプの設置スペースが不要なためスペースを有効活用できる。
      またその分の初期コストと維持管理コストが不要となる。
    • 蛇口まで安定した水質の水道水を給水できる。
    • 配水管の圧力のみで給水するため、配水管の水圧エネルギーを有効活用できる。
  • 「直圧直結給水方式」のデメリット
    • 給水できる高さに制限がある(地域によるがおよそ3階程度まで)
    • 事故や災害時に断水があれば給水が止まる
    • 配水管の減圧が起こった場合には、水の出が悪くなる可能性がある。
    • 建物の用途により直結給水が認められない場合がある。
直結給水が認められない用途の例(東京都水道局の場合)
  • 一時に多量の水を使用するものや使用水量の変動が大きい施設、建物等で、配水小管の水圧低下を来たすもの。
  • 毒物、劇物及び薬品等の危険な化学物質を取扱い、製造、加工又は貯蔵を行う工場、事業所及び研究所。

例:クリーニング、写真及び印刷、製版、石油取扱、染色、食品加工、めっきなどの事業を行う施設

東京都水道局WEBサイトより抜粋

増圧直結給水方式

増圧直結給水方式」は配水管の圧力では給水できない中高層階などに、水圧の不足分をポンプで増圧して直結給水する方式。

建物の規模、高さにより、「標準型」「直列多段型」「並列型」が使い分けられます。

自治体により、メーターの口径に制限があったり、直列型と並列型の併用はできないなどといった制限がある場合があります。
詳しくは各自治体にお問い合わせください。

増圧直結給水方式のメリットとデメリットについて
  • 「増圧直結給水方式」のメリット
    • 蛇口まで安定した水質の水道水を給水できる。
    • 増圧ポンプで不足水圧を補うため中高層階への給水が可能
    • 貯水槽の設置スペースが不要なためスペースを有効活用できる。
      またその分の初期コストと維持管理コストが不要
  • 「増圧直結給水方式」のデメリット
    • 事故や災害時に断水があれば給水が止まる
    • 停電時には中高層階への給水が止まる(非常用発電設備がない場合)。
    • 建物の用途により直結給水が認められない場合がある。
高層建物・大規模建物の場合の増圧直結給水方式
増圧直結給水方式(直列多段型)

増圧ポンプを直列に設置し、給水する方式。
標準型の増圧直結給水方式より高層階への直結給水が可能。

増圧直結給水方式(並列型)

増圧ポンプを並列に設置し、給水する方式。
より大規模な集合住宅等への増圧直結給水が可能

貯水槽水道方式

「貯水槽水道方式」は受水槽に一旦貯めた水を給水する方式。

添付の図は、地上に設置された受水槽内の水を、ポンプで建物屋上に設置された高置水槽に組み上げて、高置水槽内の水の自然流下により給水を行っている。

地上の受水槽、屋上の高置水槽はどちらか一方を設置する場合もあり、地上の受水槽のみの場合はポンプの圧力にて各蛇口へ給水する。

貯水槽水道方式のメリットとデメリットについて
  • 「貯水槽水道方式」のメリット
    • 災害時の断水時には、貯水槽内に残った水で給水が可能
    • 高置水槽の場合は、停電時にも貯水槽内に残った水で給水が可能。
    • ホテル・病院・飲食店・高層マンションなど断水時の影響が大きい用途の建物には貯水槽方式が適切
      また、クリーニング屋や印刷所、食品工場や化学工場など、水道局が直結方式を認めない場合にも有効。
  • 「貯水槽水道方式」のデメリット
    • 受水槽の設置スペースの確保が必要。受水槽周りのメンテナンススペースも含めて結構な場所をとる。
    • 建物に高置水槽を設置する場合は構造的な負担が大きい
    • 受水槽を設置するための初期コストと維持管理コストがかかる。
    • 定期的な清掃が欠かせず、怠ると水質の悪化をまねく。
      また、一定規模以上の受水槽には保健所による検査が義務付けされている。
    • 地上設置型の受水槽の場合、配水管の水圧が解放されてしまい、エネルギーの有効活用ができない。

各給水方式の特徴の説明は以上です。
給水方式の種類によるメリットとデメリットが把握できたかと思います。

基本的に水道局は直結給水方式の普及に力を入れているようで、この記事の内容は東京都水道局の「直結給水方式の普及・促進」ページを参考に作成しています。
水道局としては、世界的に見ても質の高い日本の水道水を新鮮なまま各家庭の蛇口まで届けたいという思いがあるのかと思います。
水道局がそういう方針である以上、維持管理に手間とコストのかかる貯水槽水道方式を、直結方式に切り替えていくというのは世の中全体の流れであるように思えます。

給水方式選択基準のまとめ

「直圧直結給水方式」「増圧直結給水方式」「貯水槽水道方式」の3つの給水方式のメリットとデメリットをもう一度振り返りつつ、私個人の見解で評価をつけてみます。

評価項目\給水方式直圧直結給水方式増圧直結給水方式貯水槽水道方式 ※1
建物の高さ制限ありなしなし
省スペース
構造への負担
初期コスト
維持管理コスト
水質の安定性
断水時の使用不可不可水槽の容量の範囲で
停電時の使用不可 ※2水槽の容量の範囲で
用途による制限ありありなし
エネルギー効率
※1 高置水槽式の場合
※2 非常用発電があれば発電機稼働時間内で可

こうやって見ると、用途による制限がある場合や、災害時への備えを特に重視する場合を除き、可能な限り直圧直結給水方式または増圧直結給水方式を採用するという方針でよいかと考えます。

直圧直結給水方式はどこまで採用できるのか

主に初期コストと維持管理費の面で大きなメリットのある「直圧直結給水方式」ですが、配水管(水道本管)の水圧を利用して給水する方式のため、給水できる範囲に物理的な制限があります。

制限として大きなものは主に給水栓の設置高さによるものですが、それ以外にも使用水量配管の長さ各機器の圧力損失(損失水頭)などが与える影響を加味する必要があります。

建物の計画をまとめる意匠設計者として最初に最も知りたいことは、「そもそも計画している建物が直圧直結給水方式で給水が可能なのかということと、引込管の口径はいくつになるのか」の2点だと思います。

これらを正確に知るためには水理計算と呼ばれる複雑な計算が必要となるため、設備設計者などに計算を依頼する必要があります。

ただ、設計のごく初期段階で設備設計の依頼先も決まっていないような場合には、大まかにでもそれらの判断をつかんでおきたいと考えるのは当然ですので、別記事にて上記の2点についての解説を試みたいと思います。

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この記事は、東京都水道局のWEBサイトを参考に作成しました。

意匠設計者にとっての設備設計の資料としては以下の文献もおすすめです。

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