3階建て以上の建物への特例直圧直結給水方式の検討方法(簡易水理計算)

他の給水方式に比べて経済的にメリットがあり、省スペースにもなる「直圧直結給水方式」ですが、配水管(水道管)の水圧を利用して建物全体へ給水する方式のため、物理的に制限のある給水方式です。

最近は、自治体や水道局が直圧直結式の給水方式を推奨していることもあり、今までのように3階建ての建物のみならず、4階建て以上の建物にも特例として直圧直結方式が認められるケース(特例直圧直結給水方式)が増えてきています。

設計の初期段階で設計者が知りたいのは、計画している建物に「直圧直結給水方式が採用できるのかどうか」ということだと思いますが、設備設計の依頼先が決まっていないような設計の極初期段階では、設備設計者に気軽に聞くわけにも行きません。

この記事では、そのような設計の初期段階に、計画中の中層建築物に「直圧直結給水方式」が採用できるかどうかを検討するための設計メモとして作成しました。

住宅と共同住宅それぞれの例に基づいて、直圧直結給水方式の採用検討のための水理計算の手順をできるだけ簡単に解説していきたいと思います。

4階建て以上への特例直圧給水方式とは?

現状の配水管の水圧で、建物の4階以上へ直接給水できる場合に、増圧給水設備の設置を留保し、特例として直圧で給水する方式。
将来、何らかの要因で配水管の減圧が生じた場合に備え、増圧ポンプを増設できるスペースをあらかじめ確保しておくことで、特例として直圧直結給水が認められる場合があります。

東京都の場合、水理計算上可能であれば建物の高さに制限はありませんが、メーカーの口径が20mm以上75mm以下と制限されています。
また、メーターが完全に分けられていない限り、増圧式や貯水槽式との併用は認められていません。

  • この記事の説明は、建物の設計の初期段階にあたって意匠設計者が簡易的に設備設計(特例直圧直結給水方式の簡易的な水理計算)を行う場合の参考資料程度とお考えください。
    より正確な基準や詳しい情報については設備設計者や専門書をご参照願います。
  • 建物の詳細な設計情報が不足している状態を想定していますので、本来の水理計算の手順を踏まずに行っている部分もありますことをご了承ください。
目次

直圧直結給水方式の水理計算について

簡易的な水理計算に必要な最低限の情報

中層建築物直圧直結給水方式を適用できるかどうかには水理計算が必要です。
ただし、ここでは計画の初期段階での検討についての話なので、厳密な水理計算を行うための情報が不足している状態です。

そのような条件の中で水理計算を行うためにも最低限手に入れるべき情報がありますので、まずはそれを説明いたします。
話の中で、意匠設計者にとって馴染みのない言葉が登場しますので、その都度説明して行きたいと思います。

水理計算とは?

水道局に給水工事の申し込みを行う際に求められる計算書に記述される内容を水理計算と言います。
また、給水設備の設計において欠かせないものでもあり、以下のような目的で水理計算を行います。

直圧直結給水方式の場合の水理計算の目的

主に、以下の3つの内容を計算により予測するのが水理計算の目的です。

  1. 計画使用水量に対してメーターの口径は適正かどうか。
  2. 給水装置の所要水頭が、分岐部分の配水管の水頭より小さいかどうか。
  3. 各区間の流速が2.0m/秒を超えていないかどうか。

1〜3の内容を言い換えますと、

1:建物全体の使用水量が選択している水道メーターの口径で適正に計測できる計画となっているか。
2:全ての給水用具から適正に水が出るか。
3:給水装置の耐用年数の低下や、ウォーターハンマー現象が起きないように、すべての給水管内が適正な流速となっているか。

ということになります。

簡易的な水理計算を行うにあたって最低限必要な情報
  1. 敷地前面道路にある配水管(水道管)の水圧と埋め込み深さ
  2. 共同住宅の場合は建物の戸数あるいは居住人数、住宅の場合は給水用具の総数
  3. 建物の概要図(以下の内容を含む)
    1. 配水管から最も高い場所にある末端の給水用具までの高さ
    2. 配水管から末端給水用具までの予想される給水管の延長距離
解説
❶ 敷地前面道路にある配水管(水道管)の水圧

前面道路などに敷設されている配水管(引込み管を接続する管)の水圧です。
水道局の窓口などで事前調査(最小動水圧調査)を依頼するために申請書を提出する必要があります。

東京水道局などでは郵送による受付と回答のサービスも開始されました。
どちらにしてもある程度の時間がかかりますので、早めに調査依頼をした方がよいでしょう。

ちなみに、配水管の水圧は単位MPa(メガパスカル)で表されます。

❷ 共同住宅の場合は建物の戸数あるいは居住人数、住宅の場合は給水用具の総数

水理計算の元となる計画使用水量を算出するための情報です。

給水方式が直結式の場合、計画使用水量=同時使用水量となります。

同時使用水量とは、建物の中で同時に使用する可能性のある水栓類の合計の水量のことで、この数値を元に各区間の配水管の口径を決めていきます。

「計画使用水量」「同時使用水量」とは?
  • 計画使用水量とは、給水装置工事の対象となる給水装置に給水される水量をいい、給水装置の給水管の口径の決定等の基礎となるものである。
  • 同時使用水量とは、給水装置工事の対象となる給水装置内に設置されている給水用具のうちから、いくつかの給水用具を同時に使用することによってその給水装置を流れる水量をいい、一般に計画使用水量は同時使用水量から求められる
厚生労働省 給水装置標準計画・施工方法 「用語の定義」より抜粋
  • 計画使用水量は、給水管の口径、受水槽容量といった給水装置系統の主要諸元を計画する際の基礎となるものであり、建物の用途及び水の使用用途、使用人数、給水栓の数等を考慮した上で決定すること。
  • 同時使用水量の算定に当たっては、各種算定方法の特徴を踏まえ、使用実態に応じた方法を選択すること。
厚生労働省 給水装置標準計画・施工方法 「計画使用水量の決定」より抜粋

同時使用水量は、共同住宅の場合は建物の総戸数、あるいは居住人数から算出し、住宅の場合は給水用具(水栓など)の総数から算出します。

別記事にて計画使用水量(直結方式の場合は同時使用水量)の最も簡単な算出方法を解説しておりますのでそちらもご参照ください。
(記事内では2階建て以下の小規模建物に限定していますが、算出方法は同じです。)

❸ -① 配水管から最も高い場所にある末端の給水用具までの高さ

正確に言いますと、「配水管から、最も所要水頭が大きな末端給水用具までの高さ」ということになります。

水頭とは?


水頭とは、単位体積重量当たりの水の持つエネルギーであって、高さの単位(m)で表わします。
高度水頭(位置水頭)、速度水頭、圧力水頭の3種類がありますが、給水管内を流れる水の持つエネルギーは、給水用具や給水管内の摩擦によって失われて行きます。

この、失われるエネルギーのことを損失水頭といい、末端の給水用具の高さにこの損失水頭を加えたものが所要水頭であり、所要水頭配水管の圧力水頭以下でなければ水が出ないとうことになります。

水圧と水頭の関係
底面1㎡で高さ10の水柱
底面にかかる水圧は0.098MPa

水頭1m=0.0098MPa

1Mpa = 水頭102.04m

水圧(Pa|パスカル)高さの単位(m)で表したものが水頭です。
わかりやすい考え方を以下に示します。

1Pa = 1N/㎡
水圧「1 Pa」は、1㎡の面積に1N(ニュートン)の力が作用した時の大きさを表します。

水深10mで底面1㎡の水柱の底面にかかる水圧を想定します。
1㎥の水の重量は9.8kNですので、

水圧=水柱の重量 ÷ 底面積
  =1m×1m×10m×9.8kN/㎥÷1㎡
  =98kN/㎡ =98kPa =0.098MPa

逆にして考えると0.098MPaの水圧は水を10mまで押し上げることができるということになります。

この水圧を高さを表す単位(m)で置き換えたのが水頭です。
0.098Paの水圧は水頭10mと置き換えることができます。

ちなみにこの想定上の底面は1㎡であろうが1㎠であろうが押し上げることができる水の高さは同じです。

通常は、よほど離れた場所に他の水栓がない限り、あるいは特に大きな所要水頭を必要とする水栓用具(タンクレストイレなど)がない限り、最も高い位置にある給水用具が所要水頭が最も大きい給水用具となります。

GLから末端給水用具までの高さと、GLから配水管までの深さを足したものが「配水管から、最も所要水頭を必要とする末端給水用具までの高さ」となります。
配水管の深さは水道局の水道台帳などで調べる必要がありますので、水道局の窓口や電子閲覧サービスなどで確認しましょう。

補足資料:動水勾配線図 厚生労働省「水道施設設計指針 2012」より抜粋
動水勾配とは、給水管の長さに対する損失水頭の割合 単位‰(パーミル)

動水勾配線図は配水管の圧力水頭が給水管内でどう変化するのかをイメージしやすい図となっています。
図中の動水勾配線によって、配水管の圧力水頭が末端水栓用具に向かって給水管の摩擦や給水装置(メーターや止水栓など)によって徐々に失われていく様子がわかります。
最終的に余裕水頭(M)が十分に残っていれば適正な水量で水が出るということになります。

❸-② 配水管から❸-①の末端水栓用具までの予想される給水管の延長距離

❸-①の「水頭とは?」の中で説明した損失水頭の中で、管の摩擦によって失われる水頭を算出するために必要なのが給水管の延長距離です。
水平方向だけでなく、高さ方向の距離も加算します。

ただし、給水管の口径が変わる部分と、同時使用水量を算出するために採用した水栓に接続する給水管がある分岐部分では、分けて算出する必要があります。
詳しくは後ほど説明します。

直圧直結給水方式の簡易的な水理計算の手順(住宅の場合)

設計の初期段階で行う簡易的な水理計算の手順について説明します。
住宅の場合は3つのステップ建物全体の所要水頭を算出し、配水管の水圧と比較して直圧直結給水方式の採用の適否を判断します。

STEP 1 建物の概要図を用意する

それでは、実際に住宅の水理計算を行ってみます。例として、4階建ての2世帯住宅を想定します。

まずは計画している建物の給水配管各水栓が設置される部屋名を書き込んだ給水計画の概要図を用意し、各配水管の口径に仮定値を定めます

赤線で示したのは、最も所要水頭が多いと予想できる給水管経路で、簡易的な水理計算はこの赤い部分について行います。

4階建て2世帯住宅 直圧直結給水方式概要図
給水計画 概要図
建物概要
  1. 配水管水圧:0.196MPa
  2. 規模・用途:4階建て2世帯住宅
  3. 総水栓数:各住戸6個 計13個
  4. 給水管の口径は、B-D間とC分岐部の立上りは20mm、E-G間は25mmとし、それ以外はすべて13mmと仮定しています。
    (2Fは4Fと同じ口径を設定)
  5. 各配管の長さ、高さは図中の数字(m)とする。

なお、この時点で、最も所要水頭が大きな水栓用具は4FキッチンのAの水栓であると予想しています。

STEP 2 住宅全体の計画使用水量(同時使用水量)を算出する

同時使用率を使用して、二世帯住宅全体の同時使用水量を求めます。
この計算方法はいくつかある同時使用水量を算出するもののうちの一つで、住宅の計算に向いていて最も簡単なものです。

同時使用率を使用して住宅の同時使用水量を算出する方法

建物全体の同時使用水量を算出します。

総水栓用具の数は13個なので、「表1 同時使用率を考慮した給水用具数」より、同時に使用する水栓用具数は4となります。

次に、「表2 種類別吐水量とこれに対応する給水器具の口径」より、任意に給水用具を4つ選びます

4F部分より3個、2F部分より1個を選択しました。
4Fより台所流し、洗濯流し、洗面器、2Fより台所流しを選び、これらが同時に使用されることを想定して、それぞれの使用水量を合算します。
(使用水量に幅がありますが、同時に全開で使用することは考えられないので、最小値を用いて問題ないかと思います)

同時使用水量(ℓ/min)= 12(台所流し)+ 12(洗濯流し)+ 8(洗面器) + 12(台所流し)= 44 ℓ/min

この2世帯住宅の同時使用水量は 44ℓ/min であるという結果を得ました。

表1 同時使用率を考慮した給水用具数
厚生労働省「水道施設設計指針 2012」より抜粋
総給水用具数(個)同時に使用する給水用具数(個)
1
2~42
5~103
11~154
16~205
21~306
表3 給水用具の標準使用水量(参考)
厚生労働省「水道施設設計指針 2012」より抜粋
給水器具の口径標準使用流量(ℓ/分)
1317
2040
2565
表2 種類別吐水量とこれに対応する給水用具の口径 厚生労働省「水道施設設計指針 2012」より抜粋
用途使用水量(ℓ/min)対応する給水用具の口径(mm)備考
台所流し12~4013~20
洗たく流し12~4013~20
洗面器8~1513
浴槽(和式)20~4013~20
浴槽(洋式)30~6020~25
シャワー8~1513
小便器(洗浄タンク)12~20 13
小便器(洗浄弁)15~30131回(4〜6秒)の吐水量2〜3L
大便器(洗浄タンク)12~2013
大便器(洗浄弁)70~130 251回(8〜12秒)の吐水量13.5~16.5L
手 洗 器5~1013
消火栓(小型)130~26040~50
散水15~4013~20
洗車35~6520~25業務用

STEP 3 各区間の所要水頭を算出し合計する

水理計算を行います。

水理計算表を用意する

下のような水理計算表(メモのようなものですがエクセルでの作成が便利です)を用意し、最も所要水頭が多いと予想する給水管経路(概要図の赤い管路)についてのみ、末端の水栓用具から各区間ごとに、仮定した口径流量延長(区間の給水管の長さ)を記入していきます。

水理計算表(計画概要書の最も所要水頭が多いと思われる給水管経路についての水理計算※計算前の状態
区間仮定口径
(mm)
流量
(ℓ/min)
流量
(ℓ/s)
動水勾配
(‰)
延長
(m)
損失水頭
(m)
立上げ高さ
(m)
所要水頭
(m)
水栓 A13120.2
A-B13120.25.51.5
B-C20120.21.5
C-D20320.5311.5
D-E25440.7310.06.0
メーター25440.734.0
仕切弁25440.73
分水栓25440.73
建物全体の所要水頭

記入方法

区間

区間の冒頭は、所要水頭が最も多いと予想する4Fキッチン水栓Aを記入します。

続いて最も所要水頭が多いと予想する給水管経路について記入していきます。
区間分けは以下の条件によって行います。

  • 仮定した給水管の口径が変わる部分で区間を区切る
  • 同時使用水量算出時に採用した水栓に向かう給水管がある分岐部分で区切る

今回は簡易的な水理計算ですので、その他の水栓について(今回の場合トイレや浴室)は考慮しなくて良いです。

最後に、引込み管に設置する予定のメーター類を記入します。
配水管に設置する分水栓を忘れないようにしましょう。

仮定口径

概要図内で仮定で決めた水栓類給水管の口径を記入します。
この段階では仮定値で結構ですが、推理計算によって不可の結果が出た場合には口径を大きくすることで適正な範囲に収めることができる場合があります。
計算結果が適正であった場合には仮定値が正しかったということになります。

流量

水栓類と給水管の流量を記入します。
数値は同時使用水量を算出した時に採用した各水栓の水量です。

分岐点の先に同時使用水量の算出に採用した水栓がある場合は、次の区間その流量を加算して記入します。

例えば、C点では水栓Aに加えて水栓F水栓Gの流量を合算します。この場合12+12+8=32ℓ/minとなります。
同じくD点では水栓Hの流量をさらに加えて、32+12=44ℓ/minとなります。
なお、流量はのちの計算に使用するためにℓ/sに換算しておきます。

動水勾配

動水勾配は今回の計算では使用しません。損失水頭計算時に同時に結果が表示されるだけです。

動水勾配とは?

給水管の動水勾配は、配管の長さと掛け合わせることで損失水頭が計算できる数値で、単位は‰(パーミル)です。

損失水頭(m)=配管の長さ(m) × 動水勾配(‰)÷1000

動水勾配は配管の流量配管の口径がわかれば流量図を使って求めることができます。

本来であれば、流量図を用いてそれぞれの区間の動水勾配を求めて、損失水頭を求める手順を踏みますが、今回はより簡単な計算サイトを利用しますので、空欄のままで結構です。
なお、水栓類の直管換算長がわかる場合は、配管の長さに加算して同時に算出することもできます。

ウエストン公式流量図(50mm以下の場合)
延長

区間ごとの給水管の長さを記入します。立上げ部分がある場合はその長さも含めて記入します。

損失水頭

今までの数値はこの損失水頭を計算するための下準備でした。
それでは実際の水理計算を行っていきます。

水理計算表内に記入した、口径流量延長から公式を使って計算します。

$$
h=\left(0.0126+\frac{0.01739-0.1087 D}{\sqrt{V}}\right) \times \frac{L}{D} \times \frac{V^2}{2 g}
$$

$$
V=\frac{4}{\pi D^2} \times Q
$$

$$
I=\frac{h}{L} \times 1000
$$

  • h:管の摩擦損失水頭(m)
  • V:管内の平均流速 (m/sec)
  • D:管内径(m)
  • L:管延長(m)
  • Q:流量(㎥/sec)
  • g:重力加速度(9.8m/sec²)
  • I:動水勾配(‰)

$$
I=10.666 \times C^{-1.85} \times D^{-4.87} \times Q^{1.85}
$$

$$
h=10.666 \times C^{-1.85} \times D^{-4.87} \times Q^{1.85} \times L
$$

$$
V=0.35464 \times C \times D^{0.63} \times I^{0.54}
$$

  • I:動水勾配 (‰=I×1000
  • V:管内の平均流速 (m/sec)
  • h:管の摩擦損失水頭(m)
  • C:流速係数
  • D:管内径(m)
  • Q:流量(㎥/sec)
  • L:管延長(m)

計算には以下の計算フォームが便利です。

ウエストン公式(口径50mm以下)計算ページを開き、入力欄に口径管長「延長」の数値)、流量(ℓ/s)の数値)を入力して、計算実行ボタンをクリックします。

計算結果の内、損失水頭の数値を表に記入していきます。

その時に、計算結果の流速が2.0m/sを超えていないかを同時にチェックする必要があります。
もし超えていたならば、配水管の口径が不足しているということですので、その区間の口径を一回り大きいものに変えて再計算する必要があります。

ちなみに、計算結果に一緒に表示される動水勾配は損失水頭を計算するための数値であり、今回は動水勾配を用いることなく損失水頭の数値が得られるため使用する必要はありません。

水栓メーター仕切弁分水栓については、下の「表4 水栓類の損失水頭例」「表5 メーターの損失水頭例」を使用して、流量口径から損失水頭を読み取り、その数値を直接記入します。

なお、このような表は各自治体が独自の基準で定めていることが多いので、それぞれの物件の所在する自治体の所有する資料を参照して数値を採用する必要があります。

立上げ高さ

給水管の垂直方向の高低差を区間ごとに記入します。

所要水頭

損失水頭立上り高さの合計値です。

水理計算表

前項目の説明に従って入力した結果は以下の通りです。

  • 青字:ウエストン公式計算ページに入力した数値
  • 赤字:計算ページを使用して入手した計算結果の数値
  • オレンジ:表4表5を使用して入力した数値
水理計算表 (計画概要書の最も所要水頭が多いと思われる給水管経路についての水理計算
区間仮定口径
(mm)
流量
(ℓ/min)
流量
(ℓ/s)
動水勾配
(‰)
延長
(m)
損失水頭
(m)
立上げ高さ
(m)
所要水頭
(m)
水栓 A13120.20.800.80
A-B13120.2228.25.51.261.52.76
B-C20120.232.741.50.050.05
C-D20320.53176.511.52.038.03
D-E25440.73111.210.01.116.05.11
メーター25440.731.204.01.20
仕切弁25440.730.330.33
分水栓25440.730.400.40
建物全体の所要水頭18.68

エクセルを使ったこの表と同じ自動計算表を作成しましたので、必要な方は記事の末尾より入手してください。

最終的に全区間の所要水頭を合計した数値が、建物全体の所要水頭となり、この数値が配水管の水圧より小さければ、仮定した配水管の口径は適切で、全ての水栓から適正に水が出るということになります。

配水管の水圧は0.196MPaですので、配水管の圧力水頭は、0.196MPa × 102.04 = 20.00mであり、

建物全体の所要水頭 18.68m < 配水管の圧力水頭 20.00m

となり、仮定した口径は適切であるという結果になります。

ちなみに余裕水頭20m-18.68m = 1.32mであり、かなり水圧を使い切っている状態であると言えるでしょう。

結果が不可であった場合は、仮定した口径を一回り大きいものに変えたり、立上げ高さや給水管の長さを小さくすることで良い結果が得られることがありますが、数値が大きく届かない場合は直圧での給水は不可ということになります。

微妙な数値が出た場合には、実施設計段階でかなり気を配って給水計画を行う必要があると言えます。

表4 水栓類の損失水頭例
厚生労働省「水道施設設計指針 2012」より抜粋
表5 メーターの損失水頭例
厚生労働省「水道施設設計指針 2012」より抜粋

直圧直結給水方式の簡易的な水理計算の手順(共同住宅の場合)

設計の初期段階で行う簡易的な水理計算の手順について説明します。
共同住宅の場合は4つのステップ建物全体の所要水頭を算出し、配水管の水圧と比較して直圧直結給水方式の採用の適否を判断します。

STEP 1 建物の概要図を用意する

それでは、実際に共同住宅の簡易的な水理計算を行ってみます。
まずは計画している建物の給水配管の概要図を用意します。

例として用意したものは、東京水道局の指定給水装置工事事業者工事施行要領(令和4年4月版)から抜粋した概要図です。
計算の元となる資料の一部も同じ東京都水道局の施工要領内のものを使用しています。

建物概要
  1. 規模・用途:5階建て 共同住宅 総戸数 30戸
  2. 前面道路敷設の配水管圧力:0.25 MPa
  3. 想定世帯数:4人/戸 想定居住人数 合計120人
  4. 配水管分岐部から主管頂部までの口径はすべて50mmと仮定する
  5. 末端住戸の所要水頭は「5m+末端分岐部から蛇口最頂部までの高低差(m)」とする
共同住宅 給水計画の概要図

STEP 2 各区間の同時使用水量を算出する

以下の式を用いて、各区間同時使用水量を求めます。
使用する計算式はいくつかある同時使用水量を算出する計算式のうちの一つで、共同住宅の計算に向いているものです。
なお、後々使用するため、単位をℓ/sに換算しておきます。

居住人数から同時使用水量を予測する算定式を用いる方法(新計算式)

[30 人以下] 同時使用水量(ℓ/min) = 26×(人数)^ 0.36
[31 人以上] 同時使用水量 (ℓ/min)= 15.2×(人数)^ 0.51

各区間の同時使用水量算出表
区間計算式同時使用水量(ℓ/min)同時使用水量(ℓ/s)
A-B26×(4人×2戸)^0.3654.960.92
B-C26×(4人×4戸)^0.3670.541.18
C-D26×(4人×6戸)^0.3681.631.36
D-E15.2×(4人×8戸)^0.5189.021.48
E-H15.2×(4人×10戸)^0.5199.751.66
H-J15.2×(4人×20戸)^0.51142.042.37
J-K15.2×(4人×30戸)^0.51174.672.91

STEP 3 末端住戸の所要水頭を算出する

東京都の施行要領の中に、共同住宅の末端住戸の必要所要水頭は「5m+末端分岐部から蛇口最頂部までの高低差(m)」とすることができると記載されています。
それに従い、末端住戸A部分の所要水頭は以下のように想定します。

末端分岐部Aの所要水頭 = 5m+1.2m = 6.2m

集合住宅の場合、末端1戸目の分岐点では、特に水圧を要する器具を設置する場合等を除き、「5m+末端分岐部から蛇口最頂部までの高低差(m)」を「末端1戸目の所要水頭」とすることができる。
ただし、大便器洗浄弁設置の場合は「10m+末端分岐部から大便器洗浄弁までの高低差(m)」とする。

東京都水道局 指定給水装置工事事業者工事施行要領より抜粋

大便器洗浄弁とはタンクレストイレのことです。タンクレストイレはそれだけ必要とする水圧が大きいということになります。

なお、前項目の2世帯住宅の例に倣って算出する方法もあります。
東京都のように末端住戸の所要水頭が設定されていない自治体については、個別に算出する必要があります。

STEP 4 各区間の所要水頭を算出し合計する

各区間の水理計算表を用意する

下のような表を用意し、各項目に数値を記入していきます。

各区間の水理計算表 ※計算前の状態
区間流量
(ℓ/min)
流量
(ℓ/s)
動水勾配
(‰)
延長
(m)
損失水頭
(m)
立上り高さ
(m)
所要水頭
(m)
分岐点 A6.2
A-B54.960.923.03.0
B-C70.541.183.03.0
C-D81.631.363.03.0
D-E89.021.483.03.0
E-H99.751.669.01.0
H-J142.042.378.0
J-K174.672.919.01.0

記入方法

区間

最初に末端の分岐点Aを記入します。
ここには先ほどのSTEP3で説明した末端住戸の所要水頭を記入します。

続いて最も所要水頭が多いと予想する給水管経路について記入していきます。
この例の場合、AGIと3系統ある主管のうち、最も延長距離の長いA系統最も所要水頭が多いと予想する給水管経路となります。
なお、主管から分岐管がある部分区間分けを行い記入します。

仮定口径

配水管から主管頂部までの口径は全て50mmと仮定していますので、全ての区間に50mmを記入します。
計算結果が可であれば仮定した口径が正しく、不可であれば口径を大きくするなどして再計算する必要があります。

流量

各区間の流量を記入します。
入力する数値はSTEP2で算出した各区間同時使用水量です。

動水勾配

動水勾配は今回の計算では使用しません。損失水頭計算時に同時に結果が表示されるだけです。

延長

区間ごとの給水管の長さを記入します。立上げ部分がある場合はその長さも含めて記入します。

損失水頭

仮定口径流量延長が入力できたので、損失水頭を計算する準備ができました。
実際の水理計算を行っていきます。

損失水頭の計算は、給水管の口径が50mm以下の場合はウェストンの公式を使用し、75mm以上の場合はヘーゼン・ウィリアムス公式を使用しますが、より簡単なそれぞれの公式流量図を用いて算出するのが一般的です。

しかし、公式流量図を用いて全ての区間の動水勾配を確認し、それを損失水頭に換算するのもそれなりに大変なので、ここでは、それぞれの公式を用いた計算フォームを利用することにします。

以下のウエストン公式(口径50mm以下)リンクページを開き、入力欄に口径(50mm)管長表の「延長」の数値)、流量同時使用水量(ℓ/s)の数値)を入力して、計算実行ボタンをクリックします。
計算は、すべての区間ごとに行います。

計算結果の内、損失水頭の数値を表に記入していきます。

その時に、計算結果の流速が2.0m/sを超えていないかを同時にチェックする必要があります。
もし超えていたならば、配水管の口径が不足しているということですので、その区間の口径を一回り大きいものに変えて再計算する必要があります。

ちなみに、計算結果に一緒に表示される動水勾配は損失水頭を計算するための数値であり、今回は動水勾配を用いることなく損失水頭の数値が得られるため使用する必要はありません。

立上げ高さ

給水管の垂直方向の高低差を区間ごとに記入します。

所要水頭

損失水頭立上り高さの合計値です。

計算結果

各区間の水理計算表
青字は計算ページで入力する数値、赤字は計算結果。今回は動水勾配は使用しません。
区間流量
(ℓ/min)
流量
(ℓ/s)
動水勾配
(‰)
延長
(m)
損失水頭
(m)
立上り高さ
(m)
所要水頭
(m)
分岐点 A6.2
A-B54.960.926.7353.00.023.03.02
B-C70.541.1810.323.00.033.03.03
C-D81.631.3613.203.00.0393.03.04
D-E89.021.4815.283.00.0453.03.05
E-H99.751.6618.679.00.1681.01.17
H-J142.042.3734.908.00.2790.28
J-K174.672.9150.259.00.4521.01.45
21.24

エクセルを使ったこの表と同じ自動計算表を作成しましたので、必要な方は記事の末尾より入手してください。

給水装置(水栓、仕切弁、子メーター、逆止弁)の損失水頭を算出する

次に、各自治体の要綱などの資料より、J-K区間に設置された給水装置(分水栓、仕切弁、子メーター、逆止弁)の直管換算長を調べて合計します。
合計した直管換算長は先ほどと同じように、計算ページを利用して損失水頭に変換して合計します。
計算ページでは、直管換算長「管長」に入力します。

給水装置の直感換算長の合計表
給水装置名称口径(mm)直管換算長(m)
逆止弁5013.2
メーター5012.6
仕切弁501.0
分水栓506.3
合計33.1

下に添付した、「表ー4 各器具の直管換算長」から各給水装置の直管換算長を調べて合計します。
なお、数値に幅があるものは中間値を採用します。

給水装置の口径:50mm
給水装置の流量:174.67ℓ/min=2.91ℓ/s
給水装置の直管換算長 = 33.1m

計算ページに上の数値を入力して計算を実行します。

給水装置の損失水頭 = 1.66m

東京都水道局 指定給水装置工事事業者工事施行要領より抜粋

水理計算結果の判定

各区間の水理計算表で計算した合計の所要水頭に、給水装置の損失水頭を加え、建物全体の所要水頭とします。

建物全体の所要水頭=21.24m + 1.66m = 22.90m

配水管の水圧0.25MPaですので、配水管の圧力水頭は、

0.25MPa × 102.04 = 25.51m

所要水頭22.9m < 圧力水頭 25.51m となり、仮定した口径50mmは適切となります。

ちなみに余裕水頭 は、25.51m – 22.90 m = 2.61m となり、最上階の住戸にあまり余裕はありませんので、水圧を必要とするタンクレスのトイレなどの設置は厳しいと思われます。

簡易的な水理計算の説明は以上となります。

情報元・補足・関連記事

補足資料

水理計算に使用できる補足資料を添付します。
東京都水道局「指定給水装置工事事業者工事施行要領」内に記載されている、各種給水装置の直管換算長データです。

東京都水道局 指定給水装置工事事業者工事施行要領より抜粋
東京都水道局 指定給水装置工事事業者工事施行要領より抜粋

簡易水理計算 自動計算表 ダウンロード

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情報元サイト

この記事の作成にあたって情報元となったサイトなどを紹介いたします

水理計算についてわかりやすく解説されています。大変勉強になりました。

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