ダクト式換気扇の圧力損失計算(等圧法)の解説と摩擦抵抗線図の見方

摩擦抵抗線図(円形ダクト)

以前の記事「ダクト式換気扇の圧力損失計算(簡略法)と静圧ー風量特性曲線の見方」では、ダクトの圧力損失計算(簡略法)について解説しましたが、今回は圧力損失計算(等圧法)について解説します。

静圧計算や圧力損失計算とはなに?
  • そもそも換気扇はダクト系の静圧の影響を受け、100%の能力が発揮できないため圧力損失計算が必要
  • ダクト系の圧力損失計算には「簡略法」「等圧法」がある
  • 「簡略法はダクト系全体の直管相当長(単位m)を求め、換気扇の静圧-風量特性曲線グラフに記載されているパイプ抵抗曲線と直管相当長との交点から発揮される能力を読み取る。
  • 「等圧法」はダクト系全体の圧力損失(単位Pa)を求め、換気扇の静圧-風量特性曲線グラフ記載されているパイプ抵抗曲線から直接発揮される能力を読み取る。
  • ようするに、すべてのダクト部材と換気扇の静圧-風量特性曲線グラフに直管相当長が記載されていれば「簡略法」が使えるということです。

簡略法では使用する各部材の直管相当長を計上して、その合計値と換気扇の静圧-風量特性曲線グラフに示されるパイプ抵抗曲線と直管相当長との交点を読み取ることで、必要な能力を備えた換気扇の機種選定を行いますが、使用する部材によってはその技術資料に必ずしも直管相当長が示されているわけではありません。

そのような場合に必要になってくるのが等圧法による圧力損失計算です。

圧力損失計算「簡略法」についての解説記事はこちら

この記事の説明は、住宅設計や店舗設計において意匠設計者が簡易的に設備設計(排気・換気)を行う場合の参考程度とお考えください。
より正確な計算や詳しい情報については設備設計者や専門書を参照願います。

目次

ダクト式換気扇の圧力損失計算方法(等圧法)

圧力損失計算方法(等圧法)は、設計したダクト(直管、曲がりや合流部等の局部)の圧力損失摩擦抵抗線図、あるいは円形ダクト圧力損失計算式(および局部損失係数計算式)にて求め、それらに部材(ベントキャップ等)の圧力損失合計し、10〜20%の余裕を加味してダクト系統全体の圧力損失(静圧)とします。

全体の流れは以下のようなイメージです。

STEP
必要換気量設定

換気扇を設置するエリアの必要排気量の計算(以前の記事にて解説)

STEP
ダクト設計

換気扇から外部ベントキャップまでのダクト系の設計(長さ・曲がり・ベントキャップなど)

STEP
ダクトの圧力損失の合計値を算出

直管部および局部の圧力損失をそれぞれの摩擦抵抗線図より求める。あるいは円形ダクト圧力損失計算式(および局部損失係数計算式)を用いて求める。

STEP
各部材の圧力損失の合計値を算出

ダンパー、ベントキャップ等の各部材の静圧を仕様書の圧力損失特性表から求める。

STEP
ダクト系全体の圧力損失を計算

直管、局部、すべての部材の圧力損失(静圧)を合計し、10〜20%の余裕を加味した数値をダクト系全体の必要静圧とする。

STEP
換気扇の選定

換気扇や送風機の静圧-風量特性曲線グラフより条件を満たす機種を選定する。

実際の圧力損失計算「等圧法」に該当するのはSTEP3〜STEP6ということになります。

圧力損失(等圧法)計算の例

STEP 1・2 (例題)必要換気量の設定とダクト系の設計

文字での説明だけだとわかりづらいと思いますので、簡単なダクト系の例をもって実際に計算しながら解説します。

※R/D=ダクト径に対する曲がり半径の割合

例として図面のようなダクト系統を想定します。

必要風量は200m3/h
直管は亜鉛メッキ鋼板のスパイラルダクト φ150mm 合計16m
R/D=1.0 の直角曲管が2カ所
外部ベントキャップ 1カ所

STEP 3 ダクトの圧力損失の合計値を算出

最終的に求めたいのは、ベントキャップなども含めた換気ダクト系統全体の圧力損失[単位Pa]ですが、まずはダクト(直管と曲がり部分)の圧力損失を割り出します。

ダクト(直管と曲がり)の直管相当長を求める

最初に局部(直角曲管)を同径の直管相当長に変換します。

三菱電機Webサイトより抜粋

局部(R/D=1.0 150φ 90°曲がり)2カ所の直管相当長: 2.3m × 2カ所 = 4.6m

表は丸ダクト曲管(90°曲がり)の圧力損失一覧です。
R/D(ダクト径に対する曲がり半径の割合)数値に対するそれぞれのダクト径の直管に相当する長さが読み取れます。

例題ではφ150mmR/D=1.0の直角曲管が2カ所ですので、
局部直管相当長は 2.3m × 2カ所 = 4.6m となります。

(参考: 45°曲がりの直管相当長は、90°曲がりの数値の0.6倍となります。)

直管:16m + 局部直管相当長:4.6m =ダクト全体の直管相当長:20.6m

直管部分は16mですから、局部の直管相当長4.6mを加え、ダクト全体の直管相当長20.6mという数値を得ました。

ダクト(直管と曲がり)の圧力損失を求める

次に求めたいのはダクト(直管と曲がり)の圧力損失(静圧)です。

ダクトの圧力損失の求め方は摩擦抵抗線図を用いる方法計算式による方法がありますが、まずは、より簡単な摩擦抵抗線図を用いる方法から説明します。

計算式を用いた方法は後ほど説明します。

ダクトの圧力損失の求め方

・ダクトの圧力損失を求めるには摩擦抵抗線図を用いる方法計算式による方法がある

摩擦抵抗線図を用いる方法の方がより簡単ですが、摩擦抵抗線図は余裕を見た数値になっているようですので、数値は高めに出ると思われます。

亜鉛めっき鋼板(円形ダクト)の摩擦抵抗線図から摩擦損失率(単位長さ当たりの圧力損失)を求める

摩擦抵抗線図(例)

亜鉛メッキ鋼管(円形ダクト)150φの風量200m3/h時の摩擦損失率:R’=1.1Pa/m

グラフは亜鉛メッキ鋼管(円形ダクト)摩擦抵抗線図を拡大したものです。
非常にややこしく見えますが、実は簡単なグラフです。
想定しているダクトは直径150mm必要風量は200m3/hです。
グラフにd=150mmの破線を記入し、風量200m3/hのラインとの交点を求め、この交点から垂線を書き下ろして摩擦損失率R’を求めます。
(摩擦損失率R’は、単位mあたりの圧力損失[単位Pa/m]となります。)

結果、亜鉛メッキ鋼板のスパイラルダクト φ150mmの摩擦損失率 R’=1.1Pa/mという数値を得ました。

(ちなみに、青い破線でダクト内のおよその風速[m/s]も読み取れます。)

ダクトの直管相当長:20.6m ×摩擦損失率:1.1Pa/m = ダクトの圧力損失 22.66Pa

先ほど求めたダクトの直管相当長に摩擦損失率を掛け合わせ、ダクト(直管と曲がり)の圧力損失22.66Paという数値を得ました。

STEP 4 各部材(ベントキャッップなど)の圧力損失の合計値を算出

つぎに部材(ダンパーやベントキャップ)の圧力損失を求めます。

例題では次のようなベントキャップを想定します。

株式会社大佐DS-150TEAND#10(防虫網・防火ダンパー付)を選択しました。

メーカーのサイトやカタログからDS-150TEAND#10圧力損失特性を示す資料を入手します。

DS-150TEAND#10風量200m3/h時の圧力損失: 15.5Pa

DS-150TEAND#10の仕様書に記載されている圧力損失特製グラフより、風量200m3/h時の圧力損失を読み取ります。
このベントキャップだと風量200m3/hの場合は15.5Paでした。

STEP 5 ダクト系全体の圧力損失を計算

以上でダクト(直管および局部)部材(ベントキャッップ等)の圧力損失の数値が出たので、ダクト系全体の圧力損失を合計し、その数値に給気などによる損失10〜20%程度を加味します。

ダクト系統全体の圧力損失 =
((ダクト部(直管および局部) 22.66 Pa + 部材(ベントキャップ) 15.5 Pa)) × 1.2 ≒ 45.79 Pa

給気位置が特定されている場合、給気用のベントキャップなど仕様書で圧力損失特性を割り出し、ダクト系統全体の圧力損失に合算することもできます。
ただし、給気用ベントキャップの圧力損失はフィルターなどの影響で非常に大きいので、給気口を大きくしたり、複数設けるなどの対処が必要で、その場合は計算が複雑になります。

STEP 6 換気扇の選定

ダクト系統全体の圧力損失が出ましたので、条件に見合う換気扇を選定します。

条件は圧力損失46Pa以上200m3/h以上の風量を確保できる150φの換気扇ということになります。

例えば以下のような機種が該当します。

三菱電機 VD-18ZX10-C 低騒音型ダクト用換気扇

条件:圧力損失46Pa以上で200m3/h以上の風量を確保できる性能

この換気扇の仕様書からP-Q特性グラフを確認します。

三菱電機 VD-18ZX10-C 低騒音型ダクト用換気扇の圧力損失特性グラフ

圧力損失46Pa240m3/hの風量が確保できる機種であることが確認できました。

(摩擦抵抗線図を用いた場合の)圧力損失計算は以上のような流れです。

STEP 3 補足 1 計算式を用いた圧力損失計算

例題のSTEP3では、摩擦抵抗線図を用いてダクトの圧力損失(静圧)を求めましたが、ここでは計算式を用いる方法を説明いたします。

円形ダクトの圧力損失計算式

① 円形ダクト圧力損失計算式   Δp = λ × L/d × ρ × v^2/2 [単位:Pa]

② 局部(流路断面変化部)計算式  Δp = ζ × ρ × v^2/2 [単位:Pa]

λ: 管摩擦係数
L : ダクト長さ (m)
d : ダクト径 (m)
ρ: 空気密度 ≒ 1.2kg/m3
v : ダクト内流速 (m/s) v = Q/d^2 × 4/3600π
π: 円周率3.14
Q : 風量 (m3/h)
ζ: 局部損失係数

参考:主なダクトの管摩擦係数(参考値)
アルミフレキシブルダクト λ=0.03~0.04
塩化ビニール管      λ=0.01~0.02
亜鉛メッキ鋼管      λ=0.016~0.025

例題のダクトを用いて実際に計算してみます。
確認の為にもう一度先ほどのダクト図面を記します。

直管ダクト①の計算式を用いて圧力損失(静圧)を算出します。
90度曲がり等の曲管②の計算式を用いることもできますが、直管相当長に変換してから直管と合算して①式で計算した方が簡単ですのでここでは説明を省略させていただきます。

必要風量は200m3/h
直管は亜鉛メッキ鋼板のスパイラルダクト φ150mm 合計16m
R/D=1.0 の直角曲管が2カ所
外部ベントキャップ 1カ所
亜鉛メッキ鋼鈑の管摩擦係数λ=0.025とする。

まず2カ所の曲管(90°曲がり)の直管相当長を求めます。

ここは先ほどのSTEP3での計算と同じですので、丸ダクト曲管(90°曲がり)の圧力損失一覧より、

局部直管相当長: 2.3m × 2カ所 = 4.6mとなります。

直管16mと合算し、ダクト全体の直観相当長は20.6mとなります。

次にダクト内風速を計算します。

v = Q/d^2 × 4/3600π
= 200/0.15^2 × 4/3600π
≒ 3.145 [m/s]


①式より
Δp = λ × L/d × ρ v^2/2
= 0.025 × 20.6/0.15 × 1.2 × 3.145^2/2
=
20.38 [Pa]

λ: 管摩擦係数
L: ダクト長さ (m)
d: ダクト径 (m)
ρ: 空気密度 ≒ 1.2kg/m3
v: ダクト内流速 (m/s) v = Q/d^2 × 4/3600π
π: 円周率3.14
Q: 風量 (m3/h)
ζ: 局部損失係数

摩擦抵抗線図で求めた数値より少し小さいですが、かなり近い数字が出ています。

あとは摩擦抵抗線図で求めた場合と同様の手順で、ベントキャップ等の部材の圧力損失(静圧)を加算し、ダクト系統全体の圧力損失を求めた上で条件にあった換気扇を選定します。

STEP 3 補足 2 亜鉛メッキ鋼鈑製以外のダクトに使用する摩擦係数修正表

STEP3において、亜鉛メッキ鋼鈑製以外のダクトについては、亜鉛メッキ製円形ダクト摩擦係数λ摩擦係数修正表を用いて算出することができます。

三菱電機Webサイトより抜粋

例えばφ150の塩化ビニール管を例に計算します。

上記の計算式より、風量200m3/hの時の管内風速 v=約3.145m/s
摩擦係数修正表内の近似の平均風速5m/sを基準にすると、修正係数は0.92です。

亜鉛メッキ鋼管の管摩擦係数λ2.5 × 0.92 = 塩化ビニール管の管摩擦係数λ’ 2.3

この数字を使用して先ほどの① 円形ダクト圧力損失計算式にて計算し、塩化ビニール管の圧力損失を求めます。

補足・参考資料

簡単ではありますが、圧力損失計算(等圧法)について一通り説明いたしました。

圧力損失の計算に役立つその他の資料をいくつかピックアップして紹介いたします。

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STEP3の説明で使用した、亜鉛メッキ鋼管円形ダクトの摩擦抵抗線図の高解像度版です。

クリックで拡大

矩形ダクトを円形ダクトへ換算して圧力損失も求めるための換算表です。

矩形ダクトの長辺、短辺の長さから円形ダクトの直径へ一目で変換できます。

※ Panasonic Webサイトより抜粋

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局部損失係数一覧表です。

90°曲がりをはじめ、断面が変化するダクト等、様々な形状のダクト局部の損失係数ζの値が一覧表になっています。

上の説明の中に登場した② 局部(流路断面変化部)計算式に当てはめて使用してください。

※ 三菱電機 Webサイトより抜粋

圧力損失計算(等圧法)の説明は以上です。

この記事の説明は、住宅設計や店舗設計において意匠設計者が簡易的に設備設計(排気・換気)を行う場合の参考程度とお考えください。
より正確な計算や詳しい情報については設備設計者や専門書を参照願います。

関連記事:圧力損失計算(簡略法)についてはこちらの記事をご参照ください。

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